昨夜の米国株はS&P500で約2%の下落と、強めに下げました。
この下落について報道ではミシガン大学消費者信頼感のインフレ期待の上昇と、コアPCE価格指数(前月比)の上振れを嫌気、とされていますが、この解釈は少し注意しておきたいので、その辺りを書いてみます。
ミシガン大学インフレ期待
まずミシガン大学消費者信頼感の1年先インフレ期待(※2)は、こちらで記事にしていたように、既に速報値が4.9%と出ていたので、今回の確報が5%では実質ほとんど上振れていません。
ただし注意点としては、今までこの指標は支持政党によって懸念の深刻さに差がありましたが、今月は無党派層と共和党支持層でも上昇がみられます。
次にPCE価格指数を見ていきます。
PCE価格指数
米国経済分析局 (※2)によると米国の2月のPCE価格指数の結果は以下の通りです。
指標 | 前月比(%) | 前年同月比(%) |
---|---|---|
総合PCE価格指数 | 0.3 | 2.5 |
コアPCE価格指数(食品・エネルギー除く) | 0.4 | 2.8 |
以下、カテゴリー別の前月比の推移です。
7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総合PCE価格指数 | 0.2 | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.1 | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
財 | 0.0 | -0.2 | -0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.1 | 0.5 | 0.2 |
耐久財 | -0.3 | -0.2 | 0.3 | 0.0 | -0.1 | -0.5 | 0.3 | 0.4 |
非耐久財 | 0.1 | -0.1 | -0.4 | 0.0 | 0.0 | 0.4 | 0.6 | 0.1 |
サービス | 0.3 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.2 | 0.4 | 0.3 | 0.4 |
食料・エネルギー除くPCE | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.3 | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.4 |
食料 | 0.2 | 0.1 | 0.4 | 0.2 | 0.3 | 0.2 | 0.3 | 0.0 |
エネルギー財・サービス | 0.0 | -0.8 | -2.1 | -0.3 | 0.1 | 2.4 | 1.3 | 0.1 |
市場ベースPCE | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.3 |
市場ベースPCE(食料・エネルギー除く) | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.4 |
これを見るとコアが加速したこと、そしてサービスが価格を押し上げていることがわかります。
とは言え、前年同月比では総合が2.5%で前回と変わらず、コアが2.8%で前回から0.1%上昇したのですが、それだけでS&P500が2%も下げるかは疑問です。
また、物価が上昇しスタグフレーションを懸念するのであれば、金利は上がるはずですが、昨夜は金利も激しく低下(債券価格は上昇)しました。
米国の物価について意識しておきたいこと
個人的には物価上昇が加速するとの見解はかなり疑問です。
それは今まで何度もお伝えしているように、物価の先行指標は鈍化が示唆されており、この見解を崩すとすれば関税によって価格が押し上げられるシナリオだけが現実的です。
しかしその関税もトランプ政権第一期目では、実質的にほとんど価格を押し上げていませんでした。つまり価格転嫁は簡単にできないのです。(関連記事)
また、クリーブランド連銀のインフレナウキャスト(※3)によれば、3月の年率比は以下の様に推定されています。
月 | 消費者物価指数 | コアCPI | PCE | コアPCE | 更新 |
---|---|---|---|---|---|
2025年3月 | 2.47 | 2.99 | 2.24 | 2.68 | 03/28 |
ちなみに2月のCPIは2.8%、コアCPIが3.1%です。
これを見てもやはり潜在的に物価は鈍化傾向であると考えられ、重要なことはそれが複数の物価先行指標と矛盾しないということです。(ただし、先行指標の中でバルチック海運指数は最近上昇しています。一方で同じように物流制約を示すGSCPIは大きくは上昇せずゼロ付近です)
株式市場はその日の情報だけで動くわけではない
これは持論ですが、経済動態分析によって長期的な資金を動かす勢力は、何か情報が出た後、その情報を精査しポジションを調整するのに日数を要することがあります。
僕の見解では、今回の下げはただ予定された売りの残りを、そういうプレイヤーが売っているだけだと考えています。
つまり、本当の引き金は、前から指摘していたように1月分の移民流入数の激減、そして2月分でさらに悪化した同じデータだと考えています。
移民流入数にこだわる理由
なぜ僕がこの情報にいつも拘っているかというと、今の米国経済にとって本当に重要だからです。
昨年、米国の雇用が約80万人下方修正されても、なお強気で分析していたプレイヤーのひとつに、例えばゴールドマンサックスがいました。彼らは、雇用統計の一部に移民のカウント漏れがあることを指摘していました。(ニュース記事1、記事2)
この話は雇用統計の事業所調査の話で、異論もあるようですが、世帯調査も含めると移民のカウント漏れはわりと有名な話で、連銀の分析などを読んでいるとたまに取り上げられます。
つまり、去年強気で相場を見続けるには、米国経済が移民によって数字以上に強いことを理解していないとできなかったのです。
今その移民が激減していることを、おそらくこういうプレイヤーたちは気が付いており、その売りがこの1か月出ていると僕は思っています。※ただしリセッションの兆候はまだありません。
youtubeやSNSでは関税懸念の売りとかインフレ懸念の下落だと軽く考えられていますが、そうではない可能性をしっかり意識しておき、もし買い増す場合もポートフォリオに弾力を残しておくのが無難かなと思います。
ここまで長文に目を通していただきありがとうございました。
この記事の引用元は以下の通りです。
※1 University of Michigan Surveys of Consumers. (2025). Michigan Inflation Expectations. Retrieved from http://www.sca.isr.umich.edu/
※2 Bureau of Economic Analysis. (2025). Personal Consumption Expenditures (PCE) Price Index. Retrieved from https://www.bea.gov/data/income-saving/personal-income-and-outlays
※3 Federal Reserve Bank of Cleveland. (2025). Inflation Nowcasting. Retrieved from https://www.clevelandfed.org/indicators-and-data/inflation-nowcasting
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