米国の財政煽りに正しい知識をつけておこう

週末にムーディーズが米国を格下げしたことが話題になっていました。

 

個人的には話題にするまでもないと思っていたのですが、Xにはそれに関連した煽りが大量に出現し、某ヘッジファンドの著名投資家もこのタイミングで債務危機がどうと発言していたので、もしかしたら心配な人もいるかもしれません。

 

なので、今回慌てずに認識するための記事を書いてみます。

 

年金支払いはやばい

この話は日本だとあまり話題になってないですが、米国のメディアではだいぶ前から時々話題になっていて、一言でいうと年金に関してはやばいです。

 

米国の社会保障費の枠組みは、おもに退職者への年金、障碍者への支給、遺族年金などがあります。

 

その内の、老齢年金と遺族年金の枠組み、OASI(老齢・遺族保険)信託基金が、このままだと2033年ごろ足りなくなります。(2~3割カットのペース)

 

対策としては

  • 給付開始年齢の引き上げ(67歳→70歳など)

  • 給付額の削減

  • FICA税の引き上げ(日本の厚生年金に当たる税制)

  • 高所得者への課税強化

  • 新たな収入源の確保(投資益の活用など)

 

などがありますが、いずれにしても個人消費が落ちるなど、経済に下押し圧力がかかる可能性は高いです。

 

でも、それで米国が債務危機になるかと言えば話は別です。

 

債務危機には程遠い

よくネットやニュースでは「税収に対し債務がこんなに増えた」みたいな話を見かけると思いますが、これが実体です。

青が税収

オレンジがGDP

赤が債務

 

それぞれの前年比伸び率で作成してみました。

 

GDPの伸びに対し、債務の伸びが同様のペースで推移しており、税収も増える時もあれば減るときもありますが均せば似たようなペースです。

 

これで財政破綻はしません。

 

こちらは3指標の数字と背景です。

Fiscal Year GDP ↑ 税収 ↑ 債務 ↑ コメント
2021 +10.9 % +24.3 % +6.7 % コロナ後リバウンド+資産高で税収が爆発的に伸び、債務より大幅に高い
2022 +9.8 % +21.4 % +6.1 % 引き続き税収が強く、債務の伸びを圧倒
2023 +6.6 % –10.1 % +8.2 % 株価調整で税収落ち込む一方、利払い等で債務伸びが加速
2024 +5.3 % +6.2 % +6.5 % 3指標がほぼ横並び 税収は持ち直し債務も同ペース

 

その時その時の事情で、相対的に債務の伸びがひどいときもあれば、逆に税収が圧倒するときもあるのですが、ニュースやSNSではひどいネタが基本取り上げられます。

 

つまり、ニュースで勉強してると客観的ではなくなるのです。

 

この傾向は勉強熱心なひとほどあるため、余計に初心者さんは詳しい人が言ってるように見えると思います。

 

知っておきたいこと

債務と言うのは全額誰かの利益です。

 

なので、経済が拡大するなら債務を引き上げる必要があり、米国が債務上限を引き上げ続けるのは経済が拡大する必然の作業だと言えます。

 

ところが、マーケットやSNSではその必然の作業をなぜか危機に関連付けようとします。

 

重要なのはGDPの伸び、債務の伸び、税収の伸びが健全であること、その推移をニュースにならない時も含め確認しておくことです。(ちなみにGDP比家計債務の伸びも、2008年金融危機の後から低下し続けています)

 

歴史ではなくデータを信じる

4月に米債が売られ米国離れと言われる中で、それに便乗して出てくる米国懸念の話は、大げさなものが多いです。

 

特にマーケットには金融センター国が歴史的に変わっていくと信じている人々が常にいるため、この4月の相場は大きな歴史の転換として伝わりがちです。

 

ちなみに最初に上げたヘッジファンドの著名投資家は、おそらくその発想で1980年代に大失敗していますし、この数年も中国経済に賭けて大失敗してます。

 

投資で歴史やサイクルを信仰するとそうなるんだと思います。

 

いつもお伝えしているように、米国の経済を予測したいなら経済データからアプローチすべきです。

 

たぶん、米国離れと言ってる方は、逆イールドでリセッションとか、インフレのチャートで1970年代の再来とか言ってませんでしたか?

 

もし言ってたら、相関だけ見て因果関係を見ない同じことを繰り返してます。

 

僕はその裏でがっつり投資てきたので、このブログでは引き続き米国の財政も経済データからアプローチしていきます。

 

※今回引用した数字(グラフの数値含む)は、GDPと税収が米国経済分析局、債務の伸びは米国財務省のデータを基に、すべてセントルイス連銀のFREDがまとめたデータから引用しました。

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